2014年10月19日日曜日

中村 修二(著)「ごめん!」

中村 修二(著)「ごめん!」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4478703272/>
単行本: 333ページ
出版社: ダイヤモンド社 (2005/7/15)
ISBN-10: 4478703272
ISBN-13: 978-4478703274
発売日: 2005/7/15

[書評] ★★☆☆☆

いつか読まねばと思ったまま長いこと積読になっていた本。中村修二氏(UCSB教授)、赤崎勇氏(名城大教授)、天野浩氏(名古屋大教授)の3名が、青色LEDを実用化したとして、2014年のノーベル物理学賞を受けたというニュースを受け、読書緊急度がいきなりレッドレベルになった(笑)。
  • 「ノーベル物理学賞、日本人3名が受賞」なんてニュースがあったが、中村氏は少し前から米国籍となっている(日本を捨てた人なんですよね)。中村氏はもう日本人ではないので「日本人3名」は正しくありません。…って、細かいか(笑)。
何年か積読本だったが、読み出してみたら面白かった。…最初の1/4は(4章のうちの第1章のみ)。残りは正直、かなりクドい。法律用語とか技術内容とかに暗い人にとって、2~3章を読むのは拷問に等しいだろう(裁判官らも技術については一般人。これらのような準備書類を大量に読まされてキツかっただろうな~)。でも、職務発明とか技術者の仕事の評価とかを再考させられた。そういう意味では刺激のある本だった。

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青色LEDの実現に必要なGaN(窒化ガリウム)の単結晶製造法に関する特許で、中村氏-日亜化学工業の間で激しい特許紛争があったのは10年ほど前のことになってしまったが(技術誌で読んでいた内容だったので結構懐かしい感じもあった)、本書はその二審(高裁)で判決が出された後に、ガックリ来ている状態で中村氏が書き綴った本。…と思いきや、
  • 日本の司法は真実に基づく正・悪(正・偽)ではなく、利益衡量に基づいており、個人の利益(正当な利益)よりも大企業の利益が優先されてしまう、ダメダメなものである。
  • 日本社会は官民とも文系人間に牛耳られていて、理系人間は奴隷としていいように使われている
と怒りをブチ撒けていらっしゃる。書き綴った、ではなく、書き殴った、という表現の方が適切かも知れない。

それと同時に、理系人間に、もっと好きなことをやって市場に正当に評価して貰い、正当な収入を得られるよう頑張りや!という強いエールを感じる。エールというよりも、背中を乱暴にド突いている、といった感じか。こういう元気なオッサン(失礼;)、日本にもっと沢山出て来ないかなぁ。。。研究や開発といった理系人間のなかでも、特にマネジャーでなくスペシャリストになりたいとう人たちは、是非読んでおくべき本、かも知れない。また、会社の中で冷や飯を食わされていたり燻っていたりしている技術屋のそこのアナタ! アナタこそ読んで下さい! みたいな本だ…最初の1/4だけは(笑)。残り3/4は裁判とかに興味が無かったら読まなくてよろしい

文系人間の、文系人間のために、文系人間によって運営している社会(つまり日本だ)とそこで甘い汁を吸っている文系な人々…にはチョット不都合な本かも知れないが、こういう本もたまには面白いかも知れない。

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以下、雑記:

中村氏と日亜化学の一連の裁判は、特許権の所有者や発明の対価について、業界(特に製造業)経営部を震え上がらせたものだった。これ以降、各社では特許権の権利譲渡契約や(発明提案書がこれを兼ねている場合が多い)、発明の対価について明文化されたルールを設けるようになった。

中村氏の発明の対価は、一審判決で利息込で808億円と評価されたところ(日亜への支払い命令は請求額200億円満額)、二審判決で8.4億円(利息込)とほぼ1/100にされてしまった。中村氏は、この結果について、日本の司法が腐っていると憤慨しているが、
  • 一審までは中村氏がメディアを巻き込んで(主に電子部品業界の)世論誘導をしたのに対し、当初日亜化学工業側はメディアにはノーコメントだった。それもあって、一審は中村氏の一方的な勝訴になった。
  • 一審後、二審(控訴審)に向けて、日亜側が遅まきながらも人海戦術・物量作戦で政財界やメディアを動かしたので(中村氏よりも広い業界のメディアを動かし、さらには展示会で日亜サイドの書籍をバラ撒くなどのエゲツナイ行為も見られた←著者が出版社編集部となっており、誰が書いたのかわからない怪しい本でした)、それによって判決が大きく変わってしまった(日亜側に有利な結果に変わってしまった)。
…という可能性は見逃せないだろう。

また、米国のようなデポジット(証人尋問)制度やディスカバリー制度が無い日本の法廷での戦い方が上手でなかったのも確かだろう(日本の司法制度では、原告側に立証責任があるということを忘れていたのではないか?)。日本の司法が個人より団体に有利なように働いているのはたぶん事実だろうが、二審で日亜側に有利な判決に変わってしまったのは、なるべくしてなった、と言うべきかも知れない。日亜化学は当初メディア戦略で後れを取ったものの、その後の猛追と日米での裁判の進め方は非常に上手かったとも言える。特に、メインではない裁判では敗訴でさっと幕を引いて、主戦場での戦いを有利に持って行ったりするワザは巧妙としか言いようがない(中村氏の主張を見ると、日米の違法?法律ギリギリ?のズルい方法なのかも知れないが)。

なお、中村氏は米国の裁判制度を「真実」に基づき、「正義」と「悪」をハッキリさせる理想的なものだと言う。が、様々な弊害が出ていることも鑑みると(裁判が多すぎるとか、代理人の演技力で判決が大きく変わってしまうとか)、米国の裁判制度も本当に公正なものとは言い難い。全てについてアメリカナイゼーションを押し付るのではなく、本当の意味で公正な裁判とは何かをもっと議論してくれたら良かったのに、とも思う。

特許と無縁ではいられない技術者として、色々と考えさせられる本だった。

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