2015年2月14日土曜日

E・シュミットほか「How Google Works―私たちの働き方とマネジメント」

E・シュミット、J・ローゼンバーグ、A・イーグル、L・ペイジ(序文)
「How Google Works―私たちの働き方とマネジメント」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4532319552/>
単行本: 376ページ
出版社: 日本経済新聞出版社 (2014/10/9)
言語: 日本語
ISBN-10: 4532319552
ISBN-13: 978-4532319557
発売日: 2014/10/9

[書評] ★★★★☆

Googleの経営者による、Googleがどのように成功したかという本。

本書の結論を乱暴にまとめると、成功する企業になるには、①最高の人材を惹きつけること、②従業員が充分に力を発揮して大きな成果を出せる環境を準備すること、そして③単に表層的なものに留まらない本当の企業文化を作る、これに尽きる。従来型の企業組織や情報伝達プロセスは100年前の物であり、従業員が社内の情報やリソースにアクセスできる現代型企業には合わないモデルだという。テクノロジー(特にIT・ICT)の業界では、従来型の経営手法は通用しないと考えた方が良さそうだ。
  • 上記の3つの条件の中で最も重要なのは企業文化だ。例えば、ビジョンやミッションステートメントは、従業員が心から信じられるものでなければならない。単に紙に書かれた文字の羅列ではなく、繰り返し伝え、報奨によって強化されたものでなければならない。企業経営者が率先垂範して、時間をかけて定着させたものでなければならない。自分たちが教祖・宣教師となることなく、都合の良い従業員に囲まれたいだなんて、ムシの良すぎる話というものだ。たとえば、部下に質素を要求しておきながら贅沢をしている社長などは尊敬されないだろう。
  • 悪い情報がバイアス無しに素早く経営陣に届く組織になっているか(マネジャーが保身の為に「良い情報は大袈裟に」「悪い情報は控え目に」報告されるバイアスがかかることが多い;マネジャーが悪い情報を積極的に報告したことをキチンと評価する組織であれば、状況は多少は改善されるだろう)。経営者は、社内外からの「嫌な質問」に対して真摯に答えているか。「オープンドア・ポリシー」を掲げている会社は多いが、実際にそのドアをくぐろうとする社員はいるか。…等々。
  • この辺り、耳の痛い経営者も多いのではないだろうか。私にもこの辺りについて思うところがあり、語りだすと止まらなくなる。…が、そろそろ止めておきます(苦笑)。
Google経営者による自画自賛(自社自賛)の感は否めないし(本書では“グーグル・ウェーブ”を「良い失敗だった」と言い切っているがカナリ無理がある)、情報開示に意図的なフィルタリングが掛かっているのを感じる。だが、従来型組織に属している人間にとって、ナカナカ刺激的な本だし、大いに参考になる話題も多い。中堅以上の会社員は、Googleとは全く違う自分の組織を呪いたくなるかも知れない(笑)。

◆懸念事項

面白い本だが、ここに書かれたGoogleの経営方法、経営者に都合の良い部分だけをツマミ食い的に導入すると、あっという間にブラック企業が出来上がる。社員に有能でヤル気にあふれることを要求する。狭い仕事場で、猛烈な量の仕事を要求する。失敗することへの寛容さ(トライしたことと頑張りに充分報いる)・充分な給与・充分な福利厚生、…どれか1つが欠けただけで、地獄の職場ではないか。

世の経営者の方々には、是非とも悪用(中途半端なツマミ食い)をしないで頂きたい

◆サラリーマンとして役立つ点

35~37頁の「スマート・クリエイティブ」の定義は、自分が「出来るヤツ」であるかどうか、足りない点は何かを考える上で非常に参考になる。だが、ここに書かれた通りを実行しようとすると、あっという間に処理すべきモノに押し潰されてしまうだろう。

その1が、業務量だ。Googleのやり方を実行出来る人間というのは決して多くない(むしろ少数派だろう)。猛烈なハードワーカーであり、同時に幾つものプロジェクトに関わり、全てで成果を出し続ける。100メートル走のスピードでマラソンを走り続けるような働き方だ。家庭や趣味に充分な時間を割きたい人には受け入れ難い働き方だろう。

その2が、情報量だ。Googleでは可能な限りあらゆる情報を共有化するとのことだが、これは従業員にあらゆる文書(メールやファイルサーバ上の文書、他)に目を通していることを要求する。この量が閾値を超えると、当然1人の人間には処理出来なくなる。対処方法として、情報の取捨選択・読んだ「ことにする」・自分が知らない情報への対処方法…こういった「手抜き」の技術、そして「綻びへの対処」の技術が重要にになってくる。会社員にしても公務員にしても誰もが行っていることではあるが、Google型組織に所属している場合、この能力がズバ抜けて高い必要があるだろう。

Googleのやり方が何処でも通用するとは思いこまない方が良いだろうが、参考になる話題も多い。

◆翻訳の質について

本書は、内容もさることながら、翻訳が非常に良い! これは強調しておいて良いと思う。例文として、裏表紙に書かれている箇所を引用させて貰おう。
  • As Larry spoke, it dawned on Jonathan that the engineers he was talking about weren't engineers in the traditional definition of the role.
    ⇒ ラリーの話を聞きながら、ジョナサンはようやく気づいた。ラリーの言う「エンジニア」は、従来型の定義に当てはまるような存在ではないのだ。
  • Yes, they were brilliant coders and system designers, but along with their deep technical expertise many of them were also quite business-savvy and possessed a healthy streak of creativity.
    ⇒ たしかにグーグルのエンジニアはとびきり優秀なプログラマやシステムデザイナーだが、卓越した技術知識に加えて経営にも詳しく、発想力も豊かだ。
  • Coming from an academic background, Larry and Sergey had given these employees unusual freedom and power.
    ⇒ 大学院の雰囲気をそのまま経営に持ち込んだラリーとセルゲイは、そんなエンジニアたちに常識を超える自由と権限を与えた。
  • Managing them by traditional planning structures wouldn't work; it might guide them but it would also hem them in.
    ⇒ 彼らを従来型の経営計画の枠組みで管理しようとしても、うまくいくはずがない。参考にはなるかもしれないが、手足をしばるリスクもある。
  • "Why would you want to do that?" Larry asked Jonathan. "That would be stupid."
    ⇒ 「なんでそんなことをしなきゃならないんだ? バカげてるよ」とラリーは言った。
原文は英語の論理構造で書かれていて、日本語アタマな人には少々読み難い。でも、これを見事に日本語の論理構造に組み直している。それでいて、元の文章で伝えたいことを正しく伝えることが出来ている。こういうのを名訳と言うのだろう。こういう翻訳家がもっと増えると日本の政治や経済に貢献できるのではないだろうか。

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