2016年3月13日日曜日

五味 文彦・鳥海 靖(編)「もういちど読む山川日本史」


五味 文彦・鳥海 靖(編)「もういちど読む山川日本史」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4634590646/>
単行本: 354ページ
出版社: 山川出版社 (2009/09)
言語: 日本語
ISBN-10: 4634590646
ISBN-13: 978-4634590649
発売日: 2009/09

[書評] ★★★★☆

高校の社会科教科書として有名な山川出版社による「日本史」をベースに、一般読者向けに編集した本。一説によると、検定のある教科書よりも真実に近い「歴史」が書かれているとのことだが、普通に読んだだけでは一般の教科書と見分けがつかないだろう。

リーズナブルな価格(\1,500+税)でありながら、内容は充実している(正規の教科書はさらに安価らしいが)。山川の教科書(に限らず教科書検定を通った教科書全て)に対する批判もあるようだが、長年多くの高校に採用されてきた実績は大きい。ン十年前に習った「歴史」を再度読むには良い本だと思う。

色々な出来事の裏話や繋がりに関する記述は希薄だが、物語ではなく、正しい(とされる)事実を教育目的で書いたのが教科書なのだから、それは仕方がないというものだ。

気付いた点としては(私が抱いていたイメージとちょっと違うなぁと思った点)、
  1. 歴史考証が進んだ結果、我々が学んだ「日本史」とは異なる箇所がある(人物画に描かれた人や人名、地名、解釈等)。従来の教科書では…等々いちいち注釈が細かい!(流石教科書ベース!) 研究・考証が進んだ結果が反映されているのは良いことだと思う。
  2. 記載内容に近隣諸国への配慮が見られる。また、戦前の皇国史観に基づく歴史観の排除が見られる。これは私が歴史を学んだ時以上に徹底しているかも知れない。
といった辺りが挙げられるが、平易さ・読み易さ「だけ」を狙った本や、偏った歴史認識・国際感覚を広めようとする本よりずっと良いと思う(それらの全てが悪書だとは言わないが、悪影響を及ぼしかねない本は少なくないようだ)。

・  ・  ・  ・  ・

以下余談。

山川の教科書(あるいは現行の教科書検定制度)を否定する向きもあるようだ。戦後教育が戦前の国家体制を強く批判するものである点は否めないし、戦後70年以上経った現在の教科書にもその傾向は確かに色濃く残っている。が、山川否定派が主張する通りの教科書をつくると、ナショナリズムを煽り国民を洗脳するものとなりかねない(現にそのような教科書を採用している国もあるが、それこそまさに全体主義国の洗脳教育である)。このような危険性を考えると、現行通りの、反戦・平和路線の教科書で良いのではないだろうか。様々な歴史認識が存在することを教えるのは、長じてからでも良いのではないか(自分で価値判断が出来る年齢になってから自らの意志で学ぶべきものだろう)。山川の教科書を肯定するにせよ否定するにせよ、言論の自由はあるべきだし、色々な意見があって当然だ。山川の教科書と違う主張があっても良いと思うが、山川の教科書はこれまで通りに在り続けて良い、いやむしろ在り続けて欲しいと思う。

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