2016年4月10日日曜日

「世界の歴史」編集委員会 (編) 「もういちど読む山川世界史」


「世界の歴史」編集委員会 (編) 「もういちど読む山川世界史」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4634640317/>
単行本: 310ページ
出版社: 山川出版社 (2009/09)
言語: 日本語
ISBN-10: 4634640317
ISBN-13: 978-4634640313
発売日: 2009/09

[書評] ★★★☆☆

過日読んだ『もういちど読む山川』シリーズの日本史本
に続き、今度は同じシリーズの『世界史』を読んでみた。

結論:可も不可もなく、いかにも教科書だな~という感じ(笑)。自分が高校生だった頃の教科書よりン十年分アップデートされていて、ソレナリに面白く読めた(決して娯楽本ではないが)。一気読みすると、世界史のダイナミズム、出来事と出来事のつながりが見えやすい(高校生の時はそのような読み方はしなかったな~)。宗教や思想に着目しても良いし、社会システムの変遷に着目しても良いが、各時代のどろっとした潮流が掴みやすいのは高ポイント。ただし、歴史の裏で動く利権と利権の争いまではなかなか見えてこない(その辺りは例えば池上彰氏の政治/経済の解説本がオススメ)

教科書(ふうのテキスト)とはいえ1冊の本。内容には限りがあるし、「史実」の他に書き手の意思が色々な形で反映されていることも否めない。が、一般に「世界史」と言われているものを、薄く広く再確認し、イントロ本として使うのは悪くないだろう。その上で、もっと知りたくなったことが出てきたら、それらについて改めて詳しく調べれば良いだろう(勿論、これとは逆のアプローチで、歴史物の小説やコミックを読むことで個々の詳しい物語に興味を持つのも良い)

以下、ちょっと気になった点(全然“ちょっと”で済んでいない?/笑)
  1. 1文が長くて読みにくい箇所が多い(特に市民革命・産業革命~第二次世界大戦の辺り)
  2. 基本的に米国正統派の主張する「正しい歴史」と矛盾しないものとなっているが(政治的配慮だろうか?)、これとは違う捉え方・考え方も存在する旨書いておいて欲しかった(例えば米国にもオリバー・ストーンのような観方もある)。特に、第二次世界大戦を、自由主義諸国からなる「連合国」陣営が、「枢軸国」(日・独・伊)に支配されていた植民地を解放した、かのような書き方がされているが、これは以下の点において正しくない。
    1. 枢軸国3国がアジアやアフリカの各地で植民地・従属国を支配していたことは確かだが、連合国の諸国も(日独伊3国よりも早い時期から)世界各地に植民地・従属国を持っていた。第二次世界大戦の後、枢軸国に支配されていた地域は連合国が分割統治したが、諸地域が独立したのはさらに先のこととなる(南北朝鮮のように未解決の地域や、中東やアフリカの一部のように政治的空白地域も残っている)。さらに、大戦後も「自由経済」「民主主義」を標榜する欧米が、どれだけ多くの独裁者や独裁国家を援助し、どれだけ多くの一般民衆(特に有色人種)を抑圧してきたことか?!
    2. 第二次世界大戦の構図を、連合国の「民主主義」vs 枢軸国の「ファシスト」のような書き方がされているが、連合国メンバーにはソヴィエト連邦という非民主主義国家もあり(社会主義国家をプロレタリアートによる平等な社会国家と捉えればこれも一種の民主主義ではあるが、実体は全体主義と呼ぶ方が正確だろう)、必ずしも「民主主義対ファシスト」という構図ではない(利害の一致によりたまたま連合(野合)しただけの国家群である)この構図は以下のように書くこともできよう。
        • 枢軸国…後発帝国主義・資本主義・全体主義 国家群(日独伊)
        • 連合国…先発帝国主義・資本主義・民主主義 国家群(英仏米)
             +非帝国主義・社会主義・全体主義 国家(ソ)
      1. 近年、中国の歴史教科書で「日本帝国の軍国主義」という書き方が「ファシズム」に変った(らしい)。これとほぼ同時期に日本の教科書でも「日本の軍国主義」が「ファシズム」に書き換えられた辺りに、中国の影響を感じてしまうのは気のせいか? (教科書だけでなく、教員の組合=日教組(日本教職員組合)=にも社会党・共産党・社会主義思想の影響が強かったことは広く知られていることではある。)
    3. また、本書の内容は、山川教科書否定派(下記参照)が指摘する通り、戦前、特に日中戦争~太平洋戦争における日本軍の行いをほぼ全面的に批判した書き方になっている。枢軸国側が全面的に「悪かった」訳ではないし、連合国が全面的に「正しかった」訳でもない(戦勝国=連合国が自分たちに都合の良いように“作り上げた”歴史で塗り固められていることに留意すべきである)
      • 山川教科書否定派…山川の歴史教科書が戦前の日本の政治体制や皇国史観を全面的に否定する、左翼(“アカ”)的な書き方だとする一派。山川出版社以外の歴史教科書も、教科書検定に通ったものは全て、「山川の劣化コピーに過ぎない」とする。
    4. 上記の通り戦前日本の政治体制を否定する書き方(自虐史観)が多いが、逆に戦前日本を肯定する書き方(皇国史観)も随所に見られ、統一がとれていない(新しく書かれた箇所が皇国史観寄りで、全体としてバランスを取っているつもりなのだろうか?)。一般向けとは言え、教科書(ふうのテキスト)として出すからには、出来るだけ主観を交えず、事実だけを淡々と書いて欲しかった。
    5. 現在「国際連合」(United Nations)と和訳されている国際機関は、第二次世界大戦当時の「連合国」、つまり“戦勝国組合”のようなものであることも明記しておくべきではないか(日独2国は冷戦構造の中で工業大国として大きく発展したが、そうする中で“戦勝国組合”の都合で資金提供やら軍備やら色々振り回されて来たのも事実である)
    6. 本書からは戦争の本質が全然見えてこない。中世以前の一部の宗教戦争を除き、多くは経済戦争であること(利権争いの為に軍事力を利用した「戦争」)、またその為に各地での覇権争いであることを明確に書いた方が、もっと理解しやすいと思う。
    …と、文句は幾つもあるが(上記以外にも書き出したらキリがない/笑)歴史を大局的におさらいするのには悪くない本だとは思う。先にも書いた通り、近年粗製乱造されている「歴史本」よりはナンボかマシだろう(チャラい本や内容が薄っぺらい本はまだ良い方で、酷い自虐史観本や(某国が作ったテキストか?)、あるいは皇国史観強化書(狂化書)・日本自画自賛本・嫌中本・嫌韓本・陰謀論が多いので…)

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